ひと駅向こうの百貨店に行くまでは、約二十分ほどだっただろうか。

その間、私たちが会話をすることはなかった。

私は最期になる全ての景色を噛み締めながら歩き、ナガトは一定の距離を保って後ろにつく。

閑静な住宅街を抜け、並木道を通り、大きな橋を超えると、やがて商店街が見えてくる。

人通りの多いこの場所は、私には眩しかった。

買い物に来た客。生きるためにそれに声をかける店員。派手な服装をした人。笑っている人。食べ歩きをする人。最近流行りの飲み物を手に、嬉々とした表情で商店街を見渡す人。

幸せそうでなにより。私も、今後のことを思い浮かべるだけで幸せだ。あなた達とは違う形のシアワセ。

後ろを振り返ってみる。人の流れに呑まれながらも、ナガトは私について来ていた。

変わった人だ。でも、彼だって私のことをそんな風に思っているだろう。

いきなり見知らぬ相手に話しかけ、今日一日付き合えだなんて言う人間なのだから。