「コーヒー飲む?バームクーヘン買ってきた」

「えっ?バームクーヘン?」

彼がお菓子を買ってきてくれるなんて珍しい。私が椅子に座ると、彼はキッチンに行って戸棚からバームクーヘンを出してきた。ドーナツのように穴があるスイーツが目の前に出される。

「バームクーヘンなんて久しぶりだね」

「うん。これ、駅前の有名店で買ってきたんだ。すごい人で買えるか心配だったよ」

彼はそう言いながら、バームクーヘンを切ってお皿に入れる。このお皿は台湾での公演で彼がお土産で買ってきてくれたもの。

「いただきます」

私は手を合わせ、バームクーヘンを口に入れた。この胸にある切なさなんて、甘いものを食べれば大丈夫。きっと、うまく笑える。

バームクーヘンは、ドイツのお菓子。バームは木でクーヘンはケーキという意味。その名の通り、切り株みたいな断面をしている。とてもおいしい。