「じゃあ、みっきって呼ぶ」
「……うん」
「みっき」
「ん?」
「みっきが帰れないのって、もしかして俺のせい?」
満生の実験はキリのいい所まで終わっているので、完全に秋待ちだった。
「……やっぱり、俺待ちか。ごめん。これだけ入れたら終わるから!」
満生は何も言わなかったのに、表情で察した秋が慌てた声を上げる。
「いいよ。ゆっくりで。別に急いでないし」
「でも……」
「秋くんが遅いのって、さっき、溶媒の補充してくれていたからでしょう?だから怒んないよ。むしろ、“ありがとう”だ」
秋がまだ実験をやっているのは、細々とした雑用を引き受けてくれていたからだ。秋はよく気がきくから、誰よりも率先して雑用をこなしていく。
「見てたの?」
「見てるよ。もちろん」
秋だから見ていた。自分の実験に集中するふりをしながらも、いつだって視線は秋を追いかけているのだ。
「秋くん。いつも雑用とか真っ先にやってくれるから、助かる」
雑用は学部生達が率先してやるように言われてきた。だけど学部生の中にも、性格はてんでバラバラなので、よく気づく人は気がきくけれど、そうじゃない人は本当に何もしない。
「そりゃあ、俺の立場って一番厄介じゃん。先輩なのに先輩じゃないって。だからこれぐらいはして認めてもらわないと」
そう言って満生を見ながら笑った秋の目は、誰よりも寂しげだった。



