終わったはずの恋だった。


***

「ごめん。今日、雨ひどいから電車止まる前に帰ってもいい?」

通学途中に大きな川を渡る先輩院生、飯田は大雨のたびに運休になる電車を危惧して、手を合わせる。

「いいですよ。あとは、神崎くんだけですし、片付けは私がやっておきます」
「悪いな。助かる」

7月の嵐の夜のことだった。

朝から天気が荒れていた。
駅から大学まで歩く間に傘があったにも関わらず、ずぶ濡れになった満生はロッカーに置いてある予備の服に着替えたぐらいだ。

佐倉は会議のあと、直帰すると連絡があったから、研究室に残っているのは満生と秋だけだった。

単独での実験は基本的に禁止されているため、秋が終わるまで満生は帰れない。

実験室に入ると、秋がシリンジで薬品を加えているところだった。

「あ。みっき」

随分久しぶりにその呼び方をされた。秋は無意識な様子だったが、満生は反射的に言葉を詰まらせ、固まった。

その様子を見て、秋は自分が普段心の中で呼んでいた名前がポロッと出てしまったことに気づく。

「あ。ごめん。ここだと先輩だよね」
「……いいよ。他に誰もいないときは、みっきのままで」