終わったはずの恋だった。


4月当初。
秋は研究室で一人浮いていた。

4回生の残る3人は留年などなく現役で上がってきた者達。当然、4年目にもなれば、秋が自分達と同期ではないことぐらい分かっていた。

だけど、先輩は先輩。
研究室内では同期でも秋に対しては敬語を使い、よそよそしい態度を取っていた。

満生もいくら秋が同期で仲が良くても、研究室に属する時間は当然、満生の方が長いので、一人の後輩として接した。秋もそれは理解しているらしく、他の同期と同様に満生を“池原さん”と呼び、敬語を使っていた。

“みっき”と呼んでいた優しい声で“池原さん”と呼ばれることは、せっかく塞がりかけた満生の傷を容赦なく抉り取った。

(ああ、本当に終わってしまったんだ)

人当たりがいい秋は次第に同期と打ち解けていった。
だけど、満生と秋の間にできた大きな溝はそう簡単には埋まらない。

満生が後輩として秋と接すれば接するほど、二人の仲はますます亀裂が入っていった。