結局、両親と相談して内定先に断りを入れ、院に進むことにした満生は研究に打ち込んだ。
秋への想いは強引に封印した。
恋愛はタイミングが重要だと言うけれど、自分達の恋はそのタイミングに負けてしまったよくある恋の一つなんだと。
研究室は竜宮城だと満生は思っている。
狭い室内、ビーカーやフラスコに囲まれた空間は異質で、世間と時間の流れ方が違う。学校特有のチャイムもなければ、会社のように定時もない。
人間関係も狭く、日の光も殆ど入らない部屋にいれば、世間の流行にも疎くなる。
誰と誰が付き合いだしたとか、誰かの片想い話とか、そういうものが聞こえてこない空間で満生は少しずつ、その傷を癒した。
そして一年経ってようやく、(この恋は終わった)のだと認識できるようになったとき。
秋と再会した。
研究室の“後輩”として……。



