俺たちが鴇田の事務所を訪ねると、受付カウンターの向こう側から組員が一人来て


「今日もタイガの兄貴に用なのか?」と訝しむ。


「そうですぅ♪」と俺は作った笑顔を向けると組員の一人が苦笑を浮かべ


「龍崎組のお嬢といい、今日は兄貴んとこ来客が多いな」と一言。


やっぱ、朔羅ーーー来てたか……


あいつが何でここを訪ねたのか理由は分からない。


だけど、俺たちの変な動きを何となく察したのだろう、以前からマークしてたタイガの元に出向いたってことだろうな……


てかあれほど勝手なことはするな、って言ったのに!


万が一、スネークが開発した薬を飲まされるか吸い込むかしたら、一発アウトだが、そうはさせない。朔羅が“黄龍”に覚醒する前に、カタを付けてやる。


俺は組員に分からない程度に手の関節を鳴らした。


「タイガの兄貴、来客ですよ」と組員は俺たちをタイガの元に案内してくれた。


気のない表情でPCに向かっていたタイガは顔を上げ、その一瞬口元が「ニヤリ」と不敵に笑った。組員は気づいていない。


「今日は千客万来だな」と余裕の笑みを浮かべデスクに肘を付き


「“アポ”は取ってあるだろ?」俺もデスクに手を付き、口の端で笑うとタイガは肩を竦めて、手近な組員を手で招き


「ちょっと話があるんだ。来客室使わせてもらうよ?」


と言うと


「あ、はい……」と組員はちょっと面食らったように目を開き



「“あの”兄貴がちょっと真面目…!」

「明日は槍が降るかもな」

「てかタイガの兄貴、あいつらをどうするつもりなんだろう」



と組員がボソボソ。


その噂話はタイガの耳にもしっかり届いていたようで、「やれやれ」と言った感じで肩をすくめて立ち上がると“来客室”と言う小部屋の扉を開いた。


「どうぞ?」と中に促され、


その部屋は10畳程の部屋で、中はこざっぱりとしていた。応接テーブルと、入って奥側に一人掛けのソファが二脚、テーブルを挟んで手前に三人ぐらいは座れるソファが一脚置かれている。


来客室と事務室の壁には少し大きめの窓があり、そこから事務室の中の様子が窺えるが、タイガはその窓にブラインドを下し、事務室からこちらの様子が分からないようにした。