事務所の中を一周し終わったタイガは嬉しそうに自分のデスクに戻り、


「いただきま~す♪♪」とすぐに箸を付ける。


おいしそうに食べている様子を、こいつのデスクに腰を降ろし腕を組んだまま眺めていると


「タイガの兄貴、この書類、計上しました。確認お願いします」と、組員の一人が何かの書類をタイガに見せてきて、タイガはその書類にサっと視線を走らせると


「ここ、違うよ?計算ミス」と言って書類を突き返している。


突き返された組員はタイガの背後から書類を確認して、タイガは電卓を無言で手渡し、組員はその場で電卓をたたく。


「あ、ホントだ」と目をまばたき、「すみませんでした」と頭を下げて帰って行く。


意外……


こいつっていっつもへらへらしまりのない顔してし、パッと見はそうじゃないかもしれないけど、あたしの目には“仕事できなさそー”な感じなのに。有能……なんだろうな。“あの”鴇田が傍に置いてるからな。


見ようによっちゃ睨んでいるようなあたしの姿を見上げると、タイガは箸を咥えたまま


「僕、平和主義だから~


組長なんてすぐにハジキ出すし。


組長みたいにいつも仏頂面じゃないし、真面目なときもあるんだよ~」


と説明をくれる。


ふーん、平和主義……ね。


「組長が居るとね、緊張感が凄いんだ。それはもう通夜みたいに空気が重いの」とタイガは考えるだけでイヤだと言う顔つきで鴇田のデスクを目配せ。


あたしは目を細めてその姿を眺めると、いつも通りだな。と改めて実感。


つまりいつも通り変態だってことだ。それ以外何者でもない。


一通りこいつのことが分かったからもう用はない。


と言うワケで早々にトンズラすることにした。


組員たちが「送っていきます!龍崎組のお嬢を一人で帰すわけにはいきません」と言っていたが


「いいよ。おめぇらだって仕事あるだろうし。


“オヤジ”にはあたしが訪ねたこと言うなよ?」


と、あたしが指さすと組員たちは慌てて腰を折り、頭を下げた。



「やっぱ夢だったか……


あーあ、来て損したぜ。時間の無駄だった…」





首をこきこき回していると、風に乗ってふと覚えのある香りが漂ってきた。


何で―――



何であいつがこの近くに―――





タチバナ





あたしはキョロキョロ辺りを見渡したが、その姿は見えなかった。