。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。




あたし、食いもんだけの記憶力はやたらといいみたい。(他はまるっきりだけど)


「イチ、代われ。あたしがやる」


と言って壱衣から強引に菜箸を奪うと


「へ……へぇ」と壱衣は大人しくその場を譲った。


最後の仕上げをして、皿に盛りつける際、あたしはちょっとだけ別の皿に移した。


「ユズの分ですかい?」と壱衣が目をぱちぱち。


「いや、ちょっと……」とあたしは口の中でごにょごにょ言い訳。マサと壱衣が茶の間で、夕飯の準備にいそしんでる間、あたしは手早く手近にあった重箱に野菜炒めを入れた。


二段目に炊き立ての白米をつめこんで、水筒にマサが作った味噌汁も入れた。


準備の合間マサが顔を出し、そのときは、もうすでに準備ができていたあたしは重箱の入った紙袋を手にして


「マサ、あたしはちょっと出かけてくる」と伝えると


「へ、へぇ。今からですかい」


「あ、うん。鴇……」と言いかけて慌てて口を噤んだ。


「ど、ドクターんところに、昨日お前は検査しろって言ってたろ?」


「へぇ、言いやしたが、今からですか?」とマサはピンクのふりふりエプロンを外す。


“送っていきやす”と言いたげだが、それよりも早くあたしは軽く手をあげ


「送りは要らねぇ。あ、それと戒が帰ってきたら伝えてくれねぇか?


『送り狼のとこに行ってくる』って」


「へぇ……」とマサはキョトン。


あからさまに「鴇田の事務所」とは言えないし、『タイガんとこ』とも言えない。


だが、あたしに万が一のことがあったら、その意味に気づいて来てくれる筈。


と言うわけであたしは龍崎家を後にした。