小さく意気込んでいると、


『そう言えば、あのおにーさん元気?』


“あのおにーさん”てのが誰をさすのか分からなかったが、キョウスケのことだろう。エリナは未だ戒の兄貴がキョウスケだと思いこんでるからな。


「キョウスケ?さぁ昨日以来顔合わせてないけど。あいつに用があるんなら伝えておくけど?」


『違う、違う!』とエリナが電話の向こうで、慌てて手を振ってる様子が思い浮かんだ。


「え、違うの?」


『ほら、最初にあたしのリップが似合わないって指摘して、その後ドラッグストアで会った……』


誰だっけ。


と頭の中でちょっと考えて、


「ああ、タイガのこと?」


そう言えばエリナはタイガのこと気に入ってたしな。


タイガ……


と、さらっと口にしたけれど、


あたしは自分の唇をそっと押さえた。





あいつ、あたしにキスしてきた―――……






夢かもしれねぇけど、夢だったら何でそんな夢…


しかもあいつの唇の感触が妙にリアルで、今も残っている気がした。


開けっ放しになってたロッカーの扉に鏡がついていて、ちらりとそれを覗きこみ自分の唇を眺める。


今日は慌ててたのもあってリップクリームさえ塗ってない。


ちょっとかさついていて血色も悪い気がした。