タチバナも俺の意見に同意したのだろう、
「で?それだけじゃないだろ。俺にわざわざ取引を持ちかけてきたから、
他に“取引”内容があるんだろ?
それも、本来の“取引”内容が」
タチバナは面白い何かを見るようにグラスを掲げ、ゆらゆら揺れる琥珀色の液体を眺めている。
こいつ……この場に来て面白がってるな。
と、ちょっとため息。
だが、一息つく間もなく、戒が被せてくる。
『今から鴇田の事務所を張れ―――
特に、大狼 恵一は要注意人物だ。
そいつに変な動きがないか、監視しろ』
タイガ―――…?
タチバナは「タイガ ケイイチ」と口の中で復唱して
『お前んとこの構成員か?』と目で聞いてきた。
“俺んところの構成員だ。そいつに何の目的があるのか聞け”
と手早くメモを渡すと、タチバナは目を細めて口を開きかけたが、それよりも早く
『鴇田んところの会計士だ。それ以上は話せない』と先手を打ってきやがった。
何でタイガに監視を付けさせるのか分からなかったが、こいつは
―――何かを知っている。
“了承しろ”と、またも素早く走り書きをすると
「そのお前が匿ってる女の身柄を確保してからの話だな」タチバナは薄く笑って、グラスに口を付けた。
『30分後だ。30分の間にその女の身柄が確保できなければ、その女の身柄を移動させる。
あんたは生き証人を逃すことになる。
これで畑中組の件はほぼゼロからのスタートになるぜ?』
戒め―――
認めたくないが、なかなかやるな。
狡猾だ。
だが
その“取引相手”のタチバナが俺と居ることまで気づいていない。
双方の要求が通り、タチバナが通話を切ると
「で?どうする」
と咥えタバコのまま聞いてきて
「ご要望通りにしてやるさ。お前は鴇田の事務所を張れ―――
鴇田はきっと事務所に居ない、イチについてる筈だからな」
俺は椅子から完全に立ち上がり、ボトルの残った液体を全部自分のグラスに注いだ。
それはちょうど、グラスすれすれの一杯になり、少しでも揺らすと液体が零れる。
その液体の色は―――戒の眼の色と同じ色をしていた。
グラスの淵スレスレだ。
ちょっとでも揺らしたら、
お前は転ぶ。
このスレスレの危機をどう乗り切る―――?
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