俺の質問に、相手は鼻白む様子もなく
『それがどうした?ニュースで報道されてただろ』
と、どこまでも余裕の言葉だ。
だが、その余裕どこまで持つかな――――?
「畑中組は裏カジノで金を荒稼ぎして、さらにそのカジノを隠れ蓑に、コカインの売買がされてる、
そこまで知ってんぜ?」
俺が言うと、一ノ瀬の親父は流石に自分の息子と同じ年齢(正確には違うが)の小僧がその事実を知っていることに驚きを隠せないようだ。俺とテーブルに置かれたケータイの間で視線を行ったり来たりさせている。
『それも計算済みだ?俺と彩芽さんで、お前たちを導いた』
との返答に、再び親父が目を開いて俺を見てくる。流石にそこまでは知らされてなかったのだろう。
「道案内どーも。でもゴールまで、まだ先が長いぜ?」
と言ってやると
『近道をする方法がある、と言いたいのか?
だから俺にコンタクトを取ったんだろう?』
タチバナの声が一段と低くなった。
よっしゃ、食いついてきたぜ。
俺は心の中で小さくガッツポーズ。
「ある。
畑中組で、無理やり働かされていた女の身柄を確保してある。
その女が証人だ」
正直、これだけの材料でタチバナが動いてくれるか、賭けだった。
証人と言っても、あの女も深くは知らされていない。男が借金作って、知らないうちに保証人になっちまってて、無理やり畑中組の「クラブZ」で働かされてただけ。
それを俺たちが偶然にも助けた、ってワケだ。
証拠能力は極めて弱いが、これだけしか俺の材料はない。この先は話術で勝負するしかないのだ。
「畑中組は、クラブZで裏カジノをやってて、そのまた裏でコカインを売買してる。
それに加えて“人身売買”だ。
ヤツらは借金のある人間の保証人に女を選び、そのうえ借金を返せずトンズラした場合、担保として女を利用する。
違法な取り立てだ。
『貸金業法』の第21条に該当するんじゃね?
罪状が幾らあっても足りねぇな」
俺は“人身売買”と、“貸金業法”と言う所をわざと強調して言うと
『ほぉ……それは知らなかったな』
と、タチバナも……或は手を組んでる筈の琢磨さんも?気づかなかったみてぇだ。
『その女の居所は?』
と早速聞いてきて
俺は―――
賭けに勝った―――と初めて実感した。



