TRRRR…
スピーカーにしてテーブルに置いたケータイから呼び出し音が鳴り、だが相手は3コール程で電話に出た。
『はい、橘』と短く名乗った言葉はどこか事務的に思えた。俺の口元に笑みが浮かぶ。
思ったより良く響く重低音。爽やかに聞こえるが、どこか重みを感じる。
それは“ふつう”と違う一種別の人種を思わせた。
「こんな時間にすみません、一ノ瀬です。四課の……一条警部の部下の…」
“部下”と言うとき親父はちょっと言葉を濁した。
だが、タチナバの方は
『……ああ』とすぐ納得したのだろう、頷き
『どうしたんですか?一条さんなら、一緒に居ませんよ』と丁寧だが、どこか鼻に付く物言いで、それを親父も感じ取ったに違いない、苦い顔を俺に向けてきて、俺も苦笑。
「いや、一条警部の居場所ではなく、他に聞きたいことが…」と親父が言ったところで
「よーぉタチバナ、“洒落た私服”だな。
龍崎 琢磨のバカ倅の虎間だ。
虎間 戒だ」
と親父の言葉に被せるように言って名乗ると、相手に一瞬の沈黙があった。
だがほとんど間を置かず、すぐに
『新調したばかりでね』
と、俺の皮肉もあっさり受け流すのもスマートだ。
俺はタチバナと会ったことないから顔を知らないが、朔羅いわく『イケメン』らしい。それも龍崎 琢磨の隣に並んでいても引けを取らない高レベルだそうだ。



