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== 琢磨Side==
昨日、あのくそガキ戒から電話があった。
あいつから電話が掛かってくるのは珍しいことで、しかも開口一番
『もしもし~♪琢磨さん??』
と、危うく騙されそうになるぐらい声音を変えやがって。
生憎だがそんな可愛い声に騙されんぞ俺は!
と思ったが、ふー危ない危ない。悪意の欠片もない可愛い声に一瞬怯みそうになったが、
何かとんでもない爆弾発言をされそうで俺は構えた。今度は何を企んでやがる。
『明日、朔羅と旅行に行くことになったから~♪』
と、ウィーン少年合唱団並の可愛い声音で報告された内容に、握ったスマホがみしりと鳴った。
「貴様、舐めてんのか。朔羅と旅行なんて俺が許可する筈ないだろう」
俺が目を吊り上げると、戒は急に声のトーンを1段も2段も低くして
『分かってンよ。でも今回二人きりじゃなくて、朔羅のダチと響輔と、それから色々つるんでるヤツも一緒だから、心配することはねぇよ』
と、これまた素早く先回りしてくる。
本当のことかどうか分からず俺は目を細めた。
『あと、イチも連れてくから。三日程あの女狐に振り回されなくて少しとは言え悩みの種が減るだろ』
とこともなげに言う。
電話を一旦保留にして、仕事が色々一段落して珍しく今は休憩時間と言うことでランチでも食いに行ったのか、空席の鴇田の席を見やり、別のケータイで鴇田に確認をとった。
『ええ、そうみたいです。イチのやつやたらとテンション高くて。病み上がりとは思えません』
とあっさり言ってきて、
つか朔羅が旅行行くって知ってたんかよ、お前は。大事なこと報告しろよ!
と、まぁ鴇田に当たってもしょうがない。
俺は鴇田との通話を切ると
「どうやら本当のことのようだな」
保留を解いて再度、戒に確認するように聞くと
『だから言っただろうが』と戒は不服そうだ。『はなから疑いやがって』と付け加えて。
「日頃の行いが悪いからな、イマイチ信用ならん」
ふん、と鼻息も荒く言うと
『俺なんて可愛い方だぜ?あんたらと比べたらな』と生意気な口を叩く。
腹立たしいクソガキだ。通話を強引に切ると、それから数分後にマサから電話があった。
朔羅が友達と旅行に行くと言う報告だった。マサの報告も戒とほぼ変わりなく、本当に集団旅行に行くようだ。
マサ曰く『お嬢はそれは楽しそうにしていらっしゃって』とため息をつき『メンバーはリコさんとエリナ…?エミナとか言ってた子と一緒のようです』
エリナ…?聞いたことのない名前だ。
『一度だけお嬢がその子を連れてきて、お嬢はそれはそれは楽しそうで。エリナ?エミナ?さんはしっかりしてて可愛らしいお嬢さんですよ。間違いなくカタギですが』と追加の情報を教えてくれた。
朔羅が友達と楽しそうに……
中学までは家が極道一家と言うことが周囲に知られていて、女の友達の一人も居なかった朔羅が…
好きで極道一家に産まれてきたわけじゃないのに、不憫だと思っていた。
だから極道一家と知ってて仲良くしてくれる友達ができたこと嬉しいんだろうな。
「ああ、好きにさせてやれ。夏の想い出の一つも作らないとな」
と言うと、マサもほっとしたようだった。
しかし…
憐れ、マサよ。朔羅と俺との間に挟まれて、思えばあいつにも随分苦労を掛けている。
だが俺は鴇田と同等ぐらいあいつに信頼をおいている。
昔からマサは朔羅の父親みたいな感じで、朔羅もそんなマサに懐いている。人相はサイアクだが頼れるヤツだ。



