「どっちも連絡先は知ってるが、どっちがいい?」
と一ノ瀬の親父は物分かりも良く、すんなりケータイを取り出す。
「話が早い……て言うか早すぎだ。
何で簡単に、俺なんかに手を貸すんだ?」
俺がここに来て初めて怪訝そうな顔をすると
「あの二人に“横取り”されたんだ。畑中組のことはもうずっと前から俺と相棒が追ってたのに
それを名前だけのエリートたちにさらわれた。
俺は半ば強引に休暇を取らされた」
とちょっと愚痴る。
「名前だけじゃなさそうだぜ?少なくとも彩芽さんの方は」
「あー…まぁなぁ?クセが強いだろ一条警部は」
と、何故だか同情気味に言われ、一条……て言うのか、あの女は。
どっかで聞いた名前だが、『一条』なんて苗字幾らでもいる。
「そうっスね」と俺は肩をすくめ、思考を集中させた。
彩芽さんが四課って言うことは、彩芽さんは一ノ瀬の親父の上司になるってことか。
この強面のおっさんが、あの美人の彩芽さんに手を焼いてる、なんて想像できねぇが、優秀なのだろう。
何せ俺の腕を簡単に捻りあげてきたからな。
一度龍崎家に訪ねてきたが、あのとき妙に場馴れした感じが気になってた。だけどこれで納得だ。
俺はどうも彩芽さんが苦手だ。
「タチバナの方で」
と言うと、一ノ瀬の親父はケータイでメモリを開いた。



