二人きりになってキマヅさが倍増した。
俺たちは互いにPCに向かい合い、今度こそ完全に会話も、そして視線が絡まることもなくなった。
何となくメールをチェックしながら俺はさっきの店員との会話を思い出した。
カードを切る、と言うのは“縁を切る”を助長している、と言われたが俺はキリと縁を切るつもりは毛頭ない。
一瞬の気の迷いでイチのマネージャーとキスをしたが、そこに特別な感情はなかった。一つだけ言うのなら、それは“イチ”と言う女を媒体にして一瞬だけ偽りの気持ちが繋がっただけにしかない。
音のない静寂の中、互いのキーボードを打つ音だけが響く。
沈黙は慣れているし、今更気にする程でもないが、後ろめたい気持ちがある俺が何より息苦しい程の空気に、耐えられなかった。
仕事もそこそに切りあげて、俺は自身の事務所に向かうことにした。
事務所に行ってもそれ程仕事があるわけではなかったが。
逃げる、と言うのは性に合わないし卑怯な気がしたが、とにかくこのキマヅさから解放されたかった。少しキリと距離を置けば対象法を思いつくだろう、そんな安易な考えだった。
「事務所に行ってくる」とキリに伝え、「大狼のヤツも不在だからな」と言い訳がましい言葉でスーツの上着を肩に引っかけると
「タイガさん、不在なの?」とキリが目をまばたく。
キリは―――大狼の“休暇”のことを知らないようだった。知っていて惚けてるようにも思えたが、その表情は本当に知らないことを物語っていた。
嘘をついているようには―――思えない。
と言うことはキリは大狼が本当の兄だと言うことを知らない、と言うことか。



