。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。




指輪を決めたはいいが


「婚約者様の指の号数はどのサイズでしょう」と聞かれ、これには流石に俺も答えられなかった。


細い、としか言いようがない。


そもそも触れることはあっても手を繋いだことがない。


それに俺は女に指輪を贈るのが初めてだったし。


俺が思い悩んでいると、店員は「こちらはお直し無料でございます。もし婚約者様の指のサイズに合わなくてもご来店くださった時に直させていただきます。因みにこちらの指輪は全て職人の手作業になっております。出来上がりに三か月程いただきますが」とにこにこ説明してきて。


三か月…?意外にかかるものだな。まぁデザインだけ決めて三か月の間でキリのサイズを計ってもらえればいいか。


「価格は?」と俺が聞くと、これまたストレートに聞いた俺に驚いた店員が、今度はぎこちなく笑い


「450万となっております」と答えた。


450万か……浮気……と言うか一瞬の気の迷い…キス一つの代償と考えれば450万と来たから高くついたな。まぁ俺が完全に悪いから、ここで出し渋ることもできない。思わず苦笑が漏れる。


「カード決済でお願いします」と俺はブラックカードを財布から取り出すと、店員はカードの色を見てぎょっと目を剥いた。


彼女は俺がどんな職業なのか一瞬であれこれ想像したに違いない。しかしその詮索をすぐにやめて、


「申し訳ございません、当店はカード決済を行っておりません」と。


「カードが切れない?イマドキ珍しいですね」思わず素直な本音が漏れると


「“カードを切る”と言う言葉が“縁を切る”とも言われ、当店では不吉の兆候として扱われるため、全て現金にて一括払いのシステムになっております」


ほぉ、なる程。そう言うものなんか。


「流石にこの俺も450万の現ナマを持ち合わせてないしな…」ぼそっと独り言を呟いていると、店員にはハッキリと聞こえたようで


「現ナマ……」と店員は今度こそはっきりと驚きを浮かべた。ヤバイ職業だとそろそろ勘付かれそうだ。まぁヤバイ仕事とは言えばヤバイが。


「ああ、いえ…流石にこの現金は持ち合わせがなくて」と慌てて取り繕い「押さえてもらうことは可能ですか」と聞くと


「ええ、もちろんです」と店員はここに来てようやく本来の笑顔を取り戻したようだ。



俺は―――



キリと縁を切るつもりはない。


一瞬……ほんの一瞬キリが見えなかった。名前の通り霧掛かっていて、掴めない。掴もうとすると指をすり抜けて行く。そんな気がしたが


昨日の車の中でキリが流した涙を見て、俺はキリが見えなくなったわけではない、俺が見ることを躊躇していたんだ、と思い知らされたのだ。