俺が身を引くと
「千里、母さんも。お前ら二人は二階に行ってこい。
俺はこの千里の“友達”と話がある」
と廊下の方を目配せ。
「え~なぁに?内緒話?」と一ノ瀬の母ちゃんは口を尖らせ
「そうだよ!親父、こいつの話なんて聞くことねぇって!どうせくだらないことだから」
と一ノ瀬は俺を指さし
「いいから、言う通りにしろ」
と一ノ瀬の親父が静かだが、どこかドスを含んだ声音で言うと、二人は慣れているのか
「はぁい」
「……分かったよ」
と、それぞれ立ち上がった。二人が廊下の奥に消えていくのをきっちり見届けて、一ノ瀬の親父が再び俺に向き合う。
「で?琢磨の倅が俺に何の用だよ。
何を聞きにきたんだ?
朔羅もあの事件を気にしてたが。
琢磨から聞いてねぇのか?俺ぁあの件の一線から外された。
詳しくは知らねぇ」
と、単刀直入に言われ、その間が俺にはありがたかった。
「話が早くて良かったですぅ♪」と俺はよそ行きの声で答えると
「お前、表情と言葉が伴ってねぇよ。ネコ被ってないで、早く用件ってのを言え」
一ノ瀬の親父はせっかちに言い、眉間に皺を寄せた。
「なら話が早い」
変わり身の早さは自慢だ。俺が声を低めて
「一課?四課―――?
どっちでもいい。どっちかに
タチバナと言う男と
彩芽と言う女がいないか?女の方は苗字は知らない」
口早に説明すると、一ノ瀬の親父は
「知ってるが、あの二人に何の用があるってんだ」
「俺は畑中組の情報を握っている―――
タチバナか彩芽さんとどちらかと取引したい」



