アイツに対して恐怖を抱いたことはただの一度も無かった。ただ、アイツが朔羅を陥れようとしていることには恐怖を感じる。




俺は―――…




「俺が怖いのは川上だ」


ズバリ、言い切ると


「えっ!?リコぉ??何で?」と新垣 エリナが大げさに目を丸める。


「なぁんかあいつに逆らえないんだよなー、俺。あいつヤクザな俺に平気でビンタかましてくるしな」


「ビンタって…リコがぁ?」と新垣 エリナは『信じられない』と言いたげだ。


いや、ホントのことだ?


憐れ進藤。お前は川上の尻に敷かれて一生を終えるんだな…


チーン


そう思うと手を合わせてお経を唱えたくなる。


そんなことを話していると、俺たちの足元にふっと影が落ちてきて、俺が顏を上げなくても分かる。


CherryBlossomの香り。



朔羅―――



「お、早かったな!」と気軽な感じで手をあげると、その手を朔羅の両手が包んだ。


「どした?」目を上げると


「や!あのさっ!やっぱ風車小屋のてっぺんは戒と見たいな~とか思って…」


「え?行ってねぇの?」


「あ、うん……すごい人で」


「途中まで昇ったけど、頂上までたどり着くまで時間掛かりそうだったし、ってわけで引き返してきた」と一ノ瀬が補足する。


てことは、一ノ瀬はあのジンクスを知らなかったと言うワケか。


朔羅の気持ちを疑ってたわけじゃないけれど、ちょっと不安だったのもある。


けれど、こうして


俺の手を掴んでくれた―――


「戒……」


真剣な表情で朔羅に名前を呼ばれ、


「ん?」と返すと




「早く高所恐怖症を克服しろ!」





チーン…




******************