「千里のクラスメイトの子でしょう?こないだ病院で会ったわよね」
と、一ノ瀬の母ちゃんは明るい笑顔で俺に麦茶を出してくれる。
前に一度会ったが、そんときは一ノ瀬がアキレス健断裂で緊急手術だったし、俺も俺の方で、新垣 エリナに極道だとバレたので必死だった。だからあんま記憶にないけど
結構美人な母ちゃんだ。てか可愛い。
俺は麦茶を受け取り、
「ありがとうございます~♪」とよそ行きの声で礼を言うと、一ノ瀬の母ちゃんはすっかり気を許したように一ノ瀬の隣に腰掛け、一ノ瀬は
『何ネコ被ってんだよ!』と言う視線で俺を睨んでくる。
犬猿の仲ってこうゆうことだよな。今更ながらユズさんとタクさんの不仲な理由が分かったり。
何か、最初は朔羅を取り合ってたけど、今は何となくムカつく。こんな可愛い母ちゃんがいることにムカつく!
「うちの主人に会いたいんですって?ごめんなさいね、今お風呂入っちゃってるの。ちょっと待っててくれる?」
と一ノ瀬の母ちゃんが明るく説明をくれる。
因みに一ノ瀬の親父に会いたい理由を『刑事に憧れてて、ちょっと話を聞きたい』と嘘をついた。その嘘を一ノ瀬は知らない。
だから俺の前で不機嫌&怪訝そうにしている。
別に、理由なんてどうでもよかった。
とにかく俺は一ノ瀬の親父に会いたかったから、断られても次の言い訳を考えてたわけだが、思った以上にすんなり入れて、こっちの方がちょっと面食らった部分もある。
「千里学校ではどぉ?この子昔からヤンチャでねぇ~」
と一ノ瀬の母ちゃんはちょっと苦笑。
「俺がヤンチャだったらこいつは極悪だ」と一ノ瀬が母ちゃんを睨み
「んなこと言うなよ、俺のおかげでアキレス断裂のときも助かっただろ?」と小声で言うと、一ノ瀬も黙り込んだ。
くだらない雑談で盛り上がってるときに、首にタオルをぶら下げたパジャマ姿の男が大股のがに股で、わしわしと乱暴に頭を拭きながらリビングに現れた。



