「どうしたんですか、俺、変なこと言いましたか」響輔さんは至極真剣に言った。
「いえ…!変な…ことは…」言いかけてどうしても笑いがこみあげてきた。「あはは」と思わず声をあげて笑うと、響輔さんは益々戸惑ったようにあたしの背後で狼狽える気配があった。
ここであたしはようやく振り返った。
もう大丈夫。
ちゃんと響輔さんと向き合える。
真正面から対峙した響輔さんは、あたしが恋をしたばかりのときと同じだけかっこよかった。その輝きはちっとも衰えていない。
「響輔さん」
あたしが呼ぶと
「はい」響輔さんは必ず応えてくれる。
「すっごく好きでした」
あたしが気持ちを伝えても、
「はい」
ぶっきらぼうながら、いつもちゃんと応えてくれる。
「辛いことも多かったけれど、でも楽しいこともちゃんとあって…あたし
幸せでした」
このときばかりは響輔さんは
「はい」と答えなかった。代わりに
「俺もです」と答えが返ってきた。「俺も―――楽しかった…」
それを聞けただけでも充分だよ。
あたしは今度こそちゃんと前に―――
進める。



