「……愛?」黒髪くんが、まるで初めて聞く単語を耳にしたように目をぱちぱちさせながら聞いてきて
「違うの?付き合ってるんでしょ」と聞くと
「いや…俺バカだから…愛とかホントの所まだ分かってなくて……あ!でも付き合ってます!」と黒髪くんは頭の後ろを掻く。
いや、バカとか関係なくない?てか付き合ってることぐらい一目瞭然だよ。てかこの子、バカ??あ…やっぱバカか。
「でも
ずっと一緒にいたいって、この先もずっと笑い合っていたいって」
黒髪くんは顏を赤く染めて階段を見つめていた視線をリビングの隅に移動させ小さく呟く。
「キミはホント、バカ」
あたしが思わず苦笑すると
「それを“愛してる”って言うのよ」
一言言いアイスティーのストローに口を付ける。想像以上にフルーツのみずみずしさが伝わってきて結構おいしい。アイスティーを一人で味わっていると
「そうスね!」と黒髪くんが拳を握る。勢いよく言ったもののすぐにしょんぼりと項垂れる黒髪くん。
「……俺、自信ないんスよ」
黒髪くんは缶ビールを手の中で包み俯いている。
「今だって、キョウスケの兄貴とリコちゃんを二人っきりにして本当に良かったのか、って。そればっか気になっちゃって…
リコちゃんを信じたいけど、信じるのって意外と難しいんですね」
「そうね、同感だわ」
と同意すると、黒髪くんはここにきてようやく顏を上げた。まともに目が合った。
「youさんも……そんなにきれいなのに自信無くすことってあるんスか…」
「そりゃあるわよ。今だって自信なんてない。今までちゃんと顔を合わせたことないし、そもそも響輔と一緒に居るところだって見たことがないのに、否応なく視界に入ってきちゃうし」
朔羅の存在が―――
自信ない、とあたしはもう一度口の中で呟いた。
「あーあ、あたしってこんな臆病だったっけ、って思う。朔羅と響輔、二人が会話してるのを聞いたり見たりすると、響輔の好きな子はやっぱり朔羅なんじゃないか、って」
バカげてる。今更な気がするけれど。
でも手に入れた瞬間から、離れてしまうことが怖くなった。
コンっ
黒髪くんがやや乱暴な動作でテーブルに缶ビールを置き
「それは無いっス!」とちょっと声を荒げた。
「な…何?」怖い、と言うより何なのこの子。響輔とは違う種類のペースが掴めない系??
「響輔の兄貴は中途半端な男じゃ無いっス!俺……兄貴のすぐ近くに居たからこれだけは言えるっス」
「そ、そぉ?」今度はあたしが目をぱちぱち。てかやたらと語尾に『ス』が付くわね。



