二人が階上に昇っていったのを見届け、あたしはソファに腰掛けた。リコと言う子が買ってくれたアイスティーのプラカップを手に。
黒髪くんはどこに座ればいいのか、と言った感じで戸惑ったように室内をきょろきょろ。
「そこに座ったら?立ったままだと気が散るわ」
相変わらずこの物言いはどうかと思うけれど、黒髪くんは気にした様子でもなく恐縮したように頭をぺこぺこさせて、あたしの向かい側に腰を下ろした。
それでも、たった今二階にあがっていった二人が気になるのか、しきりに天井の方を見ていた。
「二人が気になる?」と問いかけると
「そりゃ…」と黒髪くんは口ごもる。天井に向けていた顏がこちらを見て、まともに目が合うと彼は慌てて逸らす。
「何よ、あたしってそんなに怖い?」と目を細めると
「い、いえ!そのっ!俺なんかが女優と一緒に居るのが想像できなくて…ちょ、直視できないって言うか…」
想像…じゃなくて今現在こうやって顏を突き合わせてるじゃない。
黒髪くんはキマヅそうに顏を俯かせ、響輔にあげた缶ビールと同じものをぐいと飲む。
「リコちゃんが言った通り……すっげぇきれいだな…て」
あら♪それは素直に嬉しいわ。
「リコちゃんは……youさんのこと...大輪の花火だって言ってました…ひきかえ自分は線香花火って…」
「何それ、面白い例えね」
「…でも俺、線香花火が好きだって言いました…」
「ふぅん、ロマンチックね」思ったことを言うと黒髪くんは顏を真っ赤にさせた。
あら、ウブな反応。
その後会話は途切れ…結局のところ黒髪くんが何を言いたかったのは分からず、彼はしきりに階段の方を気にしていた。
「二人が気になる?」と二度目の問いかけ。
「そりゃ…」と、またも同じ返答で彼が顏をしかめる。
あたしは小さく吐息をつき
頬杖をつきながら遠くをぼんやりと眺め
「アナタに愛されてるのね、彼女」
と呟いた。



