玄蛇は響輔に手を出さないって言った。約束は守る男だ。今までだってあたしたちの仲で裏切りなんて無かった。
でも―――あの言葉を信じていいのだろうか。
響輔はあたしの「消して」と言う言葉を守ってくれて、室内はすぐに静寂に包まれた。
「……ごめん、一方的なこと言って」
素直に謝ると「別に……あんたが一方的なん今に始まったことやないし」と響輔はそっけない物言い。
「ごめん……ちょっと…怖い夢見て…それがちょうどオペラ座の怪人だったの」
素直に説明すると、響輔はちょっと微苦笑。
「あんたも案外ロマンチックなんやな」
「何よ。『案外』って。しかもオペラ座の怪人て全然ロマンチックじゃないじゃない」
口を尖らせていると、
「ロマンチックやん。結局主人公のクリスティーヌは怪人に恋心を抱く……」
響輔はあたしの顏を覗き込みながらちょっと微笑んだ。
「そうなの?」知らなかった。まるで『美女と野獣』みたい。
だけどオペラ座の怪人は美女が野獣にキスして王子様に戻る、ことはなく…
「でもその先に待ってたんは―――
―――怪人の死。
クリスティーヌを愛して、彼女も愛を返してくれた。やから“生ける花嫁”を解放する為、自ら命を絶つんや」
自ら―――
あたしは眉を寄せた。
慌てて頭を振る。あたしは玄蛇のことを好きにならないし、ましてや結婚する気もない。
だって相手暗殺者だし。そんな人無理、無理無理、絶対!無理。
でも、愛し抜いてくれて―――
その先は……?



