バカなあたし。
そもそも『ファントム』に例えたのはあたしのマネージャーだ。たとえ話なのに、こんなにびくびくしちゃって…
でも
「プレイリストって、虎間 戒の―――…?あの子何でこんな曲…」
「さぁ知らへん。このバイオリニストが結構好きなんやて。俺にはさっぱりやけど。このバイオリニスト日本人やしもしかしたら演技指導してもらえるかも。
シトウ ヒビキやて?あんた知ってる?」
響輔はプレイリストとは別にCDを一枚取り出し、しげしげとジャケットを眺めている。
「シトウ ヒビキ……そう、まさに今回の演技指導してくれる人」
バイオリニストとして腕がいいのか、或は編曲のせいか、随分迫力のある曲が部屋を押しつぶすようにして迫っている。
「カバー曲みたいやな」と響輔はマイペースにCDの曲目を目で追っている。
息が―――苦しい。
「……消して…」
あたしの声はバイオリンの音にかき消される程小さなものになった。
心臓が圧迫される。
「え?」響輔が聞き返す。
「いいから、消して!」
あたしはほとんど叫ぶように言うと、響輔は怪訝そうに顏を歪めたものの、すぐに大人しく音楽を止めた。
……はぁ
あたしは小さくため息をついた。ぎゅっと響輔の背中に手を回しTシャツ越しに響輔の温もりが伝わってきてちょっと安心した。
バカなあたし。改めて思った。