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はっとなって目を開けた。
~♪!!
幾つもの音を同時に鳴らす、あの……きっと誰もが知ってる重いメロディ。迫力あるパイプオルガンの一節は耳に攻撃的だ。
曲名は―――『オペラ座の怪人』
そう、あたしが頭上に見たのは、急速度で落ちてくる巨大なシャンデリア。
「どないしたん?」
響輔の声で、目をまばたくと、見慣れない白が飛び込んできてあたしはちょっとの間自分がどこにいるのか分からなくて辺りをきょろきょろさせた。
辺りを満たすメロディは、少しアップテンポになっていて軽快なリズムを刻んでいた。パイプオルガンではなくバイオリンの音。
まだ―――夢の中?
そう―――……あれは、夢―――
あたしの、ソファに置いた足元に響輔の姿。メガネ姿で文庫本を読んでいたのか、その手はページを捲る途中で止まっていた。流れるメロディは途切れることなく、室内を重々しく満たしている。
夢か現実か。
「きょ……すけ…?」
絞り出すように問いかけると
「うん?」と響輔が目をまばたかせる。
「響輔……」
あたしはもう一度響輔の名前を呼んだ。手を伸ばすと―――途切れた夢、繋がれない手。ではなく、響輔の温もりも感触もしっかり感じ取れた。
「どないしたん」響輔はまた聞いてきて、
そこでようやくあたしは、響輔の友達の別荘に居るってことに気付いた。
半身をのろりと起こし額を押さえる。
「怖い―――……夢を見た」
「どんなん?」響輔がメガネを取り去りっちょっと眉を下げる。
「……うん、ちょっと……それより、この音楽…」
「ああ、戒さんのプレイリストにあったん勝手に借りてん。あんた今度バイオリニストの役演る言うてたから」
勝手にって……それって『借りる』じゃないよね。
寄りに寄って『オペラ座の怪人』なんて……タイムリー過ぎる。
額に浮いた汗をちょっと拭って、あたしは何とか起きあがろうとした。
「まだ寝てた方がええんちゃう?顔色悪いで」響輔に指摘されて、あたしは自分の掌を見つめた。痺れるような感覚で僅かに震えている。
確か…オペラ座の怪人で最初に殺されるのは『カルロッタ』
クリスティーヌを舞台に立たせたい為にシャンデリアを落としてカルロッタを殺す。
その怪人『ファントム』の姿が
玄蛇
の姿に重なった。
でも響輔の、物語での役柄ではクリスティーヌに想いを寄せていた『ラウル』だ。
シャンデリアに潰される筈はない。