オレンジジュースを喉に通したかちょっと喉が潤って、余裕ができてきた。
「てかエリナ遅いなー…部屋で日焼け止め塗ってんのかな」と冷蔵庫の扉を閉める時だった。
ふと不穏な気配を感じた。キョウスケは何事も無かったようにミネラルウォーターのペットボトルからグラスに水を注ぎ入れている。
あたしが気付いたぐらいだから、キョウスケも絶対気付いてると思ったのに。
「俺はやっぱビーチとか似合わないみたいで、ここで涼んでた方がいいみたいです」とのんびり。
キョウスケ―――……?何で気付かないの?
その足音は聞こえなかったが、敢えて押し殺してるような。だが、それ程大物じゃない。気配を感じ取れるぐらいだから。
キョウスケは気付いてないみたいだけど、あたしは気付いた。
あたしがバっと振り向くと、びっくりしたようなエリナが突っ立っていて、大きな目を開いていた。
「ど、どうしたの……サクラ、そんな怖い顏して…」
「エリナ…」
正直、拍子抜けした。エリナはワケが分からないと言った感じで、それでもあたしの表情がよっぽど怖かったのか肩を縮こませている。
違う……“あの”気配はエリナのじゃなかった……気がする。
気がする、と断定できないのはキョウスケが気付かなかったから。
「キョウスケ……エリナだって知ってた?」目を上げて聞くと
「ええ」とキョウスケは短く答える。
またあたしは―――戒の時と同じで、気配を読み違えた。
何で―――……
「ど、どうしたの…」とまたも不安そうにエリナが聞いてきた。
「何でもない、行こ」とあたしがエリナの手を引くと
「俺、やっぱここに残ります」とキョウスケは何事もなかったかのようにイチが眠っているリビングに向かった。
「おうよ、留守番頼む」
と言って、あたしは気配を読み違えたことを曖昧に誤魔化した。



