玄関まで居間を通らないと出られない。扉を開けっぱなしにしてある居間から、まだ半数残って居る組員の笑い声が聞こえ、


「ちっ」


と舌打ちして俺は居間を通らず、二階の響輔の部屋に忍び込んだ。


部屋の(あるじ)は居ない。


窓を開けると、ちょっとしたベランダがあり、俺はそれを乗り越え地面に降りた。


「面倒かけさせやがって、スネーク……いや、タイガの野郎」と思わず悪態が口に出る。


まだ明かりが灯っている龍崎組を背に走り出すと、少し行ったところで、白いワンボックスカーがチカチカとハイビームを点滅させていて、俺はその車に走り寄った。


言うまでもなく運転席に響輔が。


助手席に乗り込むと


「うまく行きました?」と、すぐさま響輔が聞いてくる。


「ああ、お前のおかげでな」


俺は掌の中に握った小さな錠剤を宙に投げ、キャッチ。この錠剤は軽い入眠剤で、響輔が朔羅に出した麦茶に入れておいた。


「これでお嬢は朝まで目覚めない筈です」


「薬抜きも、今晩でほぼ終わるだろ。ついでに速人が仕込んだGPSもな」


「荒療治ですね」と響輔は苦笑い。


「仕方ねぇだろ?ヤク抜きはサウナみてぇな高温に長時間入るのが一番効くんだ。


汗で体外に放出されるからな」


「慣れてますね」と響輔が目を細めて


「何だよその目は、俺ぁやってねぇぞ?そんな体に悪いこと」


と口を尖らせると


「ヘビースモーカーで酒豪がよく言う」と響輔は苦笑。


「うっせ!早く出せ」と響輔を睨むと


「はいはい」と肩を竦め


響輔がハンドルを握り、普段ならぜってぇこいつの運転にだけは避けたいのに、今回ばかりはそうも言ってられない。


何せ、時間との勝負だからな。