“こないだ”って言うのは、鴇田の部屋で初めて響輔が『愛してる』って言ってくれたときのことだ、と言うことはすぐ分かった。


「ううん、あたしも……いけなかった…


玄蛇のしたこと隠して、あたしへの気持ちを隠して……」


不思議だね。


あたしたちはいつも喧嘩ばかりだった。今日(正確には昨日)ここに到着する瞬間…いいえ、到着してからも喧嘩してた。


でも―――


あたしにあんな風に言えるの、響輔だけだよ。あたしもあんな風に我儘言えるの、響輔だけなんだよ。


今は、それがくすぐったくも気持ちいいんだ。


あたしたちは至極自然に口づけを交わしていた。


さっき、そうなりかけたときの……強引で、貪るようなキスではなく……とても優しい


口づけだった。


響輔の手があたしの背中に広がったシフォンの生地の間に滑り込む。


ワンピースの生地越しとは言え背中を撫でられて、ぞくりと首が粟立ち背中がのけぞる。


響輔は何も言わずあたしの首筋にキスしてきて、顏を戻し再びあたしが響輔の両頬を掌で包んで口づけ。


今なら―――朔羅の代わりでもいい…


響輔の黒い水晶体に、あたしが映ってるから。


それに―――


『思いのほか一結の存在が自分の中で大きくなってることに気づいた』


あたしは響輔の言葉を信じる。


あたしの背中に回った響輔の手が…何かを探るように上下していたけれど、その何かを見つけたのだろう、背中のファスナーが降ろされるのが分かった。


あたしの肩から…そして腕を伝ってワンピースの袖が滑り落ちて


パサッ


衣擦れの音がやけに艶めかしく、静かな夜……静かな室内に響いた。