響輔の手をシフォン素材の袖(?)と言うのかどうか分からないけれど、その先がさらりと滑る。
「愛してる―――」
前置きもなく突如として言われた言葉に、あたしは目をまばたいた。
響輔が腹筋だけで起き上がる。
「―――って言うたら、俺を見る……言うたやん」
響輔がちょっと寂しそうに眉を寄せ
「…何…言ってるの?意味分かんない……」
あたしは首を横に振って、さっきまで脳内に我が物顔で居座っていた玄蛇の姿を追い払おうとした。
けれど―――
『君を愛しいと感じた。
私は―――君の愛し方が分からないのだ』
姿は消えても、声は―――……頭の中をいったりきたりしている。
「何なの」
これは響輔と玄蛇、二人に向けた言葉だった。どうしようもなく苛立ちを隠しきれなくて、ついつい棘のある物言いになった。
響輔があたしの腕から手を離す。それを機に響輔の手からすり抜けてベッドを立ち上がろうとした。
「どこ行くん?」
「ごめん……ちょっと下に…水でも飲んでくるわ」
響輔の顔を真正面からまともに見れなくてあたしはぶっきらぼうに言って、今度こそ立ち上がろうとした。
響輔の手が再び伸びてきてあたしの手首を……今度はちょっと強く引くと体が後ろへ引っ張られるように倒れる。けれど倒れた先はベッドではなく、響輔の腕の中で。
響輔はあたしの膝の裏に手を入れ、まるでお姫様だっこのような形でベッド……ううん、響輔の膝の上に座らされた。
びっくりして目をまばたいていると
「忘れろ……言うても…ほんまは、無理なことは分かってる。
あの男は―――、一結のこと初めて愛したやつや。
俺かてそうや。ほんまは…
今でも、ときどき……
自分でも抑えが効かん程、あのひとを欲しくなることがある」
あのひと―――と言うのは聞かなくても分かる。
朔羅
「唯一の理性で繋ぎ止めて、必死に今の立場守って……」
響輔がくしゃりと前髪を掻き揚げる。
「でも……一結もきっと…そうなんやろな…って初めて理解できた。
こないだはごめん。
怒りに任せて、感情で物言って…
でもな、言葉に出すと、思いのほか一結の存在が自分の中で大きくなってること
気づいた」



