ベッドに潜り込むと、響輔もそれに倣い横になる。リモコンで照明を落とすと、薄暗がりが部屋を満たした。


響輔のすぐ隣―――……まるで距離を詰めるようにあたしは響輔にぴったりと寄り添ったのに―――


何故か真正面から響輔を見られない。


響輔に背を向けるような形になり、響輔もそれ以上何か言ってくることもなく、してくることもない。


あたしが響輔に背を向けた理由―――


ただ、ノーメイクのあたしを見られたくない…ってことだけが原因だとは思わない。




『私を打ち負かしたのは、今までこの世でたった一人―――




鷹雄 響輔だ。




椅子取りゲームは負けたな。はじめての負けだ』



何で…


何で今頃あいつの言葉を思い出すのよ…


ぎゅっと目を瞑っても、まるで嘲笑うようにその姿が瞼の裏に焼き付いている。


何なの。


あたしは―――もう迷わない……


そう決めた筈なのに―――


ううん、迷う迷わないの問題じゃない。そもそも玄蛇はあたしにとって単にビジネスパートナーだけ。最初からそうだった。最後まで。


そこに余分な感情は不必要だ。


だけど


響輔との距離が近くなればなるほど、反比例のように玄蛇の存在が心に侵入してくる。


そんなことを思っていると、すぐ隣……響輔が寝息を立て始めた。


寝ちゃっ……た…?


思わず半身を上げてすぐ隣で横になった響輔を見下ろすと、薄暗がりの中……淡い色のカーテンの向こう側で怖い程鮮明な月の光が室内を照らしていて


ふと窓の外に目をやると、空に浮かんだ月はきれいな円を描いていた。


てっきり眠っているのかと思ったけど、響輔は目を開いていて無言であたしを見上げていた。



今夜は―――フルムーンだ。




遠くから犬の遠吠えのような声が聞こえてきた。


犬……と言うより



―――狼…


ぞくり、と嫌な予感がして暑い筈の夜なのに寒さを覚えた。


バカみたい。こんな所で野生の狼なんて生息していないのに、きっと犬よ。


それでも足元から這い上がってくる寒さにぎゅっと体を抱くと、


響輔があたしの二の腕に手を伸ばす。





「きれいやん



これ……一結に良く似合ってる





―――きれいや」