その後、マネージャーは変にぎくしゃくした様子でビールを一本空にすると、帰ると言い出した。
「夜分遅くまで申し訳ございませんでした。youのことは―――……改めてちゃんと話し合いたいと思います」
「ええ、それがいい」
マンションの下でタクシーを捕まえる為に道に視線を巡らせていると、見慣れた黒いプリウスが音も静かに近づいてきた。
ドキリ
意味もなく胸の奥が強く鳴った。
プリウスはゆるやかに減速して路肩に停車すると、案の定キリが降り立った。
「翔?」
キリは黒いスーツパンツ姿に白いカットソーと言う格好だ。今日はキリとは別行動だった。今まで会長のお傍に居たのだろう。
たった今仕事を終えてこちらに向かってきた、と言う感じだ。
キリは俺とマネージャーを見るとちょっと意外そうに目をまばたき、キリの目が『誰?』と聞いている。
「キリ、こちらはイチのマネージャーだ、イチとちょっとごたついてて」
言い訳っぽくならないように気を付けながら、ことさら何でもないように説明をした。マネージャーは違った意味で恐縮したように頭を下げる。
「イっちゃんと…トラブルでも?」とキリがちょっと心配したように眉を寄せる。
「ああ、解決策を話し合ってた。ちょうど良かった。タクシーが拾えそうにもない。送ってもらえないか」
「ええ…構わないわ」キリは事務的に頷いて運転席に回った。
俺も同乗するつもりだが、一瞬…どこに座るか悩んだ。
結局俺はキリの運転する車の中、助手席に回った。マネージャーは後部座席に落ち着いた。



