「そのうちあいつも気が変わるでしょう。近道をしたかったらキョウスケのことを認めてやった方が早いですよ」
提案してみると
「キョウスケ…?ああ…」
マネージャーはちょっと苦いものを飲み込んだような顏でビールを煽った。
「分からないな、あの男は親の私が言うのもなんですが、申し分無いと思いますが?
見てくれも、性格も(ついでにムカつく程頭もいいしな)」
「…分かってます…別に彼が特別嫌いとかじゃないんです」
「なら認めてやったらどうですか?若い恋人たちは周りが見えてない。やみくもに反対しても逆効果だ。それにどこかに逃げ道を作ってやらないと―――」
俺とさゆりのように―――…
と言う言葉は飲み込んだ。
今度は俺が苦い顔で眉をしかめる。
「……意外でした……そうゆう考えを持っていらっしゃったなんて…」
マネージャーはグラスを両手で包み、目をパチパチさせている。
「経験談なんでね」
遠くの方を見てぽつりと呟くと
「―――……そう言えば、youのお母様も美人な方だと聞いてます。
youはお母様のこと本当に大好きだったみたいで」
「イチの身内がさゆり一人だったのもあるでしょう。さゆりは私生児だったイチの風当たりが強かったのを気にしていたようだ」
グラスに口を付けると、苦いようなもの…ではなく、それが今度はハッキリと苦い味になっていた。
「俺は―――…
イチを十九年前に、捨てた酷い男だ。
あんたの旦那より―――もっとタチが悪い」
トン
グラスをテーブルに置くと、目の前でマネージャーが弾かれたように肩を揺らしその際に彼女の手の中にあったグラスが彼女の手からすり抜けて、テーブルの上に転がった。
中身がこぼれて、テーブルの上に小さな水たまりができた。
「…す…すみませ…」
マネージャーは慌てて立ち上がろうとして、再び俺が差し出したティッシュを手繰り寄せようとして、俺も差し出すつもりだった。
一瞬…
そうほんの一瞬彼女の指先が俺の指先に触れた。
冷たい
体温だった。



