結局、マネージャーが買ってきた惣菜をつまみに酒を飲むことになった。
こんな…人生相談会みたいなこと性に合わないが、今日の俺は何だか誰かの話に耳を傾けていたい、そんな気分だった。そうじゃないと否応なしに考えてしまうから。
大狼
キリ―――
スーパーの惣菜売り場なんて用がないし、食ったこともほとんどないから、いかにも健康に悪そうな味を想像していたが、意外にいけるな。毎日は無理だけど。
俺は揚げ出し豆腐を食いながら、向かい側でようやく緊張が抜けたのかマネージャーはビールを一気に半分程飲み、小さく吐息をついた。
「結婚して15年程ですが、私たちの間に子供は居ません」
この問題に何と返していいのか分からず、
「まぁ忙しいでしょうからね」と当たり障りのない返事を返した。やっぱり俺は人生相談会には向いてないみたいだ。マネーロンダラーにはなれても、カウンセラーにはなれない。
「いえ…忙しいのを理由に私たち逃げてたんです…
お互いの気持ちから。子供を授からない現実から。
最初は不妊治療とかしましたが、どうしても無理で……だから私は気を紛らわせる為仕事に打ち込みました。主人は……やっぱり子供が欲しいのか…若い子と…」
言いかけた言葉をマネージャーは慌てて飲み込んだ。きゅっと握った拳に力が籠っているように見えた。
すでにスーツの上着を脱いでいて、ネクタイを肩に掛けながら俺はウィスキーのグラスを傾けた。部屋は冷房が利いていて寒いぐらいなのに、俺の中は苛立ちの為か熱かった。
酷い男だな。
極道の男は―――女を大切にするものだ。
こうと決めた女に誠実であるし、裏切ることはほとんどない。
「……だから、私はきっとyouを本当の娘だと思って可愛がっていたのだと思います」
なるほど…だから喧嘩したことにここまで悩んでいるのだ。
恐らく口喧嘩なんてしょっちゅうだったろう。イチからは鬼マネージャーと愚痴られていたし。
でも
そこまでイチがこの女に可愛がられていた―――
愛されていた―――
と知って、熱くなっていた心が優しい温もりに変わっていった。



