「え―――……?」
マネージャーが両手で包んでいたグラスが大きく揺れて中からビールが零れる。
「す、すみません!」マネージャーは慌ててバッグからハンカチを取り出そうとしていたが、それよりも早く俺が近くにあったボックスティッシュを差し出した。
「あ、ありがとうございます…」
マネージャーはティッシュを二枚、三枚と引き抜きまたも恐縮したように身を縮ませる。
「……私があの子を裏切った―――…?」
ティッシュをきゅっと握りながらマネージャーは眉を寄せる。
はぁ
今度は分かりやすく俺がため息をつくと、マネージャーはのろりと顔を上げた。
「とりあえず、何か食いませんか?時間が時間だし腹も減ってきた。宜しければ何か作りますが」俺がテーブルに手をつき、ゆっくりと立ち上がろうとすると
「い、いえ!お構いなく!りょ、料理でしたらこれを!」
とマネージャーはさっき落とした惣菜が詰まったビニール袋をテーブルに置き
「………」
思わず沈黙すると
「あ、あはは~!流石に割引のお惣菜はお父様のお口には合いませんよね」と慌てる。
「いや…そういう意味じゃ…ご主人が待ってるんでしょう?あなたの帰りを。お二人でそれを食べるつもりだったのでしょう?」
と無表情に指摘すると
マネージャーは一瞬、泣きそうな顔で俺を見上げてきて、唇をきゅっと結んだ。
「待っては―――……いません。
私たちは……冷めきった夫婦なんです。
このお惣菜のように、見栄えばかりきれいなのに、そっけなくて冷たい」



