マネージャーに断りを入れず、勝手にグラスにウィスキーを注いだが、彼女はそのことに何も言ってこなかった。
「まぁ、気持ちは分からないわけでもない。私があなたでもそうしていたでしょうね」
グラスを傾けて苦笑を浮かべると、マネージャーがぱっと顏を上げた。
その顔は不安に揺らいでいた。
俺がそれほど怒っていない、と気づいた筈だが、まだ彼女の中でくすぶっている何かが払拭できないのだ。
「イチと仲直りの橋渡しを―――……?
生憎ですが、私はあいつに嫌われてましてね、こっちの話なんて聞き入れないですよ」
淡々と言うと、マネージャーは目に見えて落胆した。
「……いえ…お父様にそのようなこと頼める身分ではございません…自分が招いたことですので」
お父様……と言われるのは正直まだ慣れない。確かに俺はイチの父親だが、このマネージャーの方が俺より年上だし、変な気持ちだ。
「正直に言ってみてはどうですか?あのネタをリークしたのはお前の名前を売る為だ、お前を守るためだ、と」
提案してみたが、マネージャーはゆるゆると首を横に振った。
「ちゃんと言いました。でも……分かってくれなくて…」
イチと喧嘩してここまで気落ちしてるマネージャーも意外だったが、彼女のしたことに対して怒っているイチも少し意外だった。
何て言うか…あいつ、そうゆう面では妙に割り切ってるところがあったからな。
理解ができない、と言うタイプではない。
では何故か―――…
グラスの中で琥珀色の液体をゆらゆらさせながら、ふと顏を上げた。
「あいつ―――……
もしかしてあなたに裏切られたと思ってるんじゃないだろうか」



