「どうぞ、散らかってますが」


玄関の灯りを付けて女マネージャーを案内すると


「いえ、すみません」とマネージャーは恐縮したように身を縮ませる。


リビングにマネージャーを通すと、彼女は物珍し気に室内をキョロキョロ。


「散らかってなど…とてもきれいになさってるのですね」


「ありがとうございます、コーヒー?それともアルコール…はお付き合いできませんが、コーヒーなら一緒に」


と俺はコーヒーの豆の入った缶を取り出し、冷蔵庫を開けて中を覗いた。


「…いえ!お構いなく!」


マネージャーは恐縮したように慌てて立ち上がったが、その姿を横目でちらりと見ると再び彼女は蛇に睨まれたようなうさぎのように体をちょっと震わせる。


どうやら俺は普通に見てるつもりなのに、睨んでいると思われているらしい。


「あ…アルコールは苦手ですか…?それともこれからまたお仕事が?」


とマネージャーが恐々聞いてきて


「苦手じゃありませんし、仕事も終わりです。後は寝るだけですけれど、呑んだらあなたを送り届けられない」


「いえ!そんな!私はタクシーを拾うので大丈夫です!」


またぞろマネージャーが手を振り、俺はちょっと苦笑を浮かべた。無言で缶ビールとグラスを二本取り出し、ダイニングテーブルの上に置いた。


マネージャーは恐縮したように、だけど断ることなくこちらまで歩いてきた。


何となく向き合う形で席に着く。


俺は二人分のグラスにビールを注ぎ入れながら


「今日、イチは旅行です。あなたもてっきりお休みだとばかり思っていましたが」


と俺が切り出すと


「…youがオフだと言っても私が休みを取れることもなく…彼女がオフのときは、youを売り込むために営業やら、あとはスタッフとの打ち合わせなど」


「なるほど、大変なお仕事ですね。お忙しそうで」


本心だった。


この女はもしかして俺よりよく働ているのかもしれない。