先輩の使ってるヘアワックスと、タバコの匂い……それからほんのちょっと潮の香り…


それは先輩が一瞬浮かべてた涙の香りに思えた。


あたしは、こないだ二人で花火をしたときのように自然に目を閉じ


あたしたちは二度目の―――キス。


先輩の唇はすぐに離れていったけど、先輩の顔は遠のいていかない。そのままあたしの頭を引き寄せて、こつんと額を合わせる。


「何か……すっげぇ照れくさいな…」


そう言った先輩の顔は夜空の中でもはっきりと分かる赤身を帯びていて


「あたしも」と、ちょっと笑った。


「なぁ、一つお願いしていい?」


先輩が目を上げて


な、なんだろ……


まさか部屋に来て…とか!いくらなんでもそれはちょっと早過ぎな!


と一人あたふたしていると


「敬語やめて?タメ口で話して?」


「え?」


そんなこと……?


「あ、はい!じゃなくて……うん!」


慌てて頷くと、先輩もちょっと嬉しそうにはにかむ。


そんなときだった。


「リコ~?大丈夫か~??なかなか帰ってこないけど」


と千里がひょっと顏を出し


へ!?千里!?お風呂じゃ!?


「リコっ!ごめん!一ノ瀬くんを止めたんだけど…!」


とエリナが同じように顔を出し、こっちは酷く申し訳なさそう。


千里はあたしたちの姿を見てその場で硬直。


わ!わわ!


先輩も慌ててぱっとあたしから手を離す。


「え!?何…?二人、付き合うの!?」と千里。


千里!!空気読め~~~!!


「せ、千里が出てきたってことは朔羅も出てくる頃だよね!」と慌てて言うと


「そ、そうだな!次リコちゃんの番だったよな」と先輩もあたふた。


あたしたちはぎこちなく言って、先輩はその場に留まり、あたしは回れ右。部屋に入って行こうとしたとき


「リコちゃん」


先輩に呼び止められた。



「楽しい旅行にしような~」


先輩は歯を見せてまるで太陽のような…明るい笑顔で笑う。




「はい!……じゃなくて…うん!」



先輩はあたしにとって太陽みたいだ。でも響輔さんは月のよう。


欠けていく月のように、あたしの恋は消えたけど、でも日は昇る。


太陽の光が、暗い足元を照らしだしてくれる。