「リコちゃん、大好きだ!
俺と付き合ってください」
先輩はビールと煙草を手摺の上に置いて、バっと両手を差し出し腰を折る。
へ!?
びっくりし過ぎていて、あたしはひたすら先輩の指先らへんに視線をゆらゆらと漂わせた。
「……やっぱダメ……?無理もないよなー……あんなデキる男で、男の俺から見てもかっこいい響輔さんの後だと…」
先輩はちょっと悲しそうに笑い
「ごめん……今のは聞かなかったことに…」とふいと顔を逸らそうとして、その目尻に小さな水滴がくっついてた。
「先輩……」
「ごめっ……目に砂が…」と先輩はくぐもった声で言ったけど、
「先輩…」
「かっこわりー」先輩は目元を乱暴に拭い
あたしはそんな先輩の手を取って、
「あたし…!まだ何も言ってませんけど」
勢い込むと
「―――…え?」先輩が顏を戻した。
あたしは一生懸命先輩の両手を握った。
「こ…こちらこそっ!こんなあたしで良ければ…」
大切な言葉は震えていて、みっともないけど裏返っちゃった。
「え!マジで!?」
先輩がびっくりしたように目を開いて
「はい!あ、あたし先輩が卵焼き好きって知ってて、昨日頑張って練習して…でも今日やってみたら全然上手くできなくて…ホントはyouが手伝ってくれて……
料理、今まで全然できなかったし、こんな女としてはダメダメなあたしだけど、
でも、先輩の好物これからたくさん練習します!」
一気にまくしたてると
「うっそ……ヤバい……」先輩はくしゃりと前髪を掻き揚げ
「それ……すっげぇ嬉しい……何か俺…泣きそう…」と先輩は今にも泣きだしそうな…それでいて本当に嬉しそうな複雑な笑顔を浮かべていて
「もう泣いてます」あたしがちょっと笑って
先輩の手を強く握ると、先輩の顔が近づいてきた。



