あたしは俯いてすぐ傍に迫った砂浜に視線を落とした。


サラサラと風が砂の粒子を巻き起こしている。その先に視線を向けると、満潮時ここから数メートルまで波があったのであろう、その場所は砂の色がちょっと濃くなっている。


確か…… 『人は満ち潮の時に生まれる』って言う話もあったな…


あたしは―――つい最近まで恋をして、そしてそれに敗れた。


一回は諦めようとした。けれど諦められなくて…あがいて。


でも


ダメだった。


ホントは響輔さんの本心、聞きたくなかった―――


聞いたときに、ちゃんと自分の言葉で自分の意見を言えたら良かった。


だけど、ただ悲しくて


バカみたいに笑顔を貼りつけて―――逃げることしかできなかった。


音も立てず引いていく潮のように……響輔さんの心の中に、くっきりと黒い影だけ残して。


でも今度は


―――逃げたくない。


そんなことを考えてると


「リコちゃんてさ~、俺には敬語なのに戒の兄貴にはタメ口なんだよな~。同じ歳なのに」とちょっと空を仰いで先輩がぽつりと言う。


「え…?だって先輩は先輩で、龍崎くんはクラスメイトだし」


と苦笑いで返し「先輩こそ、何で龍崎くんや響輔さんに敬語?前から思ってたんですけど、龍崎くんのどこがいいんですか?」と、今度ははっきり分かる笑い声で聞くと


先輩は空を見ていた視線を海の方に向けて


「俺……進藤家ではデキの良い兄貴と何かと比べられて、何もかもうまくできない俺は厄介者扱いなんだ」


それ…前も聞いた…


「同じ血の繋がった兄弟なのに、親はデキの良い兄貴ばっかり可愛がる。まるで俺なんか存在してないような…見ないフリ


いっそ産まなきゃ良かったって、前、母親がこぼしてた」


え………?