リコが卵焼きを、エリナがエビフライの下ごしらえをしているとき
「ねぇ、聞いていい?」とイチが無表情にあたしに聞いていた。
「あ……はい…」
てか何?
何を聞かれるのか一瞬構えたけれど
「響輔の好きな食べ物ってなに?」
と意外な質問で
「あ…えと、魚が好きだった…筈です……焼き魚とか煮魚とか…」
予想外の質問にあたしは拍子抜け。聞けば随分間抜けな返答になっただろう。
ぽかんとしていると
「な、何よ!付き合ってるんならそれぐらい知っててもいいだろ、的な目は。
だってちゃんと食事したことないし」
イチは面白く無さそうにフイと顔を逸らし、でもその横顔が恥ずかしそうに赤く染まっていた。
「あ…いえ、ちょっと意外だな…って…」
「何よ、意外って。いかにも料理できなそうとでも思った?まぁ慣れてるけどね、そうゆうこと言われるの。
あ、このカジキもらっていい?」
とあたしの手元に転がっていたカジキのパックを手にするイチ。
意外……だった。料理もだけど、何か……女優て聞いてたし、それだけで雲の上の人のような気がした。それにさっきのキョウスケとの喧嘩もあたしがびっくりするほど激しかったし…
だけど、話すとそれ程遠く感じなくて、歳相応の恋する乙女だ。
「爪…大丈夫ですか…?マニキュアはがれちゃったり…」と心配すると
「これ?ジェルだから大丈夫よ」
ジェル……?って何だ??
と思ったけれど質問できず、あとでエリナに聞こう。と決めた。
それより
「あ……あの、最初に会ったとき…狐の嫁入りと龍崎会長には…気を付けてって言ったの…」
と言い出すと
「ああ…」イチはちょっと目を細めた。
そのときだった。
「お嬢、料理の手伝いします」
とダイニングのカウンターの向こう側からキョウスケが顏を出した。



