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―* 鴇田Side *―


腕時計の秒針がちょうど夜の20時を指したところで、俺はお代わりのスコッチを頼もうとした。


遅い…


もうかれこれ一時間は待ち人を待っている状態だ。


苛々した面持ちで腕に巻いたロレックスを意味もなくトントンと指で叩く。


「待ち合わせですか~?」


ふいに近くで声を掛けられ、その声の主は若い…恐らく20代前半だろう女が二人にこにこ笑顔を浮かべて立っていた。


いかにも今風な短いスカートだが、髪色や爪の先を見るとその職業がOLだと見える。


「ああ、待ち合わせ中だ」とそっけなく言って、空になったグラスの中身を名残惜しそうに飲むと


「じゃぁ人が来るまで一緒に飲みませんか?」とOL風情の女たちが何かをねだるような目で、俺を見てくる。


「すぐ人が来る」とそっけなく言い、暗に「立ち去れ」と言う意味を含ませたが、いくらか酔っているのだろうか女たちは危うい足取りでめげずに


「え~さっきから見てるけど、待ち合わせの人来ませんよね。フラれたんじゃないですかぁ?」


と少し呂律が怪しい語尾で俺のスーツの上着越しに肩に触れてくる。


「高そうなスーツ」とどこか値踏みするような視線に、本気で怒鳴り返しそうになった。


いつもならこんな小娘、適当にあしらうことができるのに、今は何故かそれができない。


どうしようもない苛立ちが顏に出て……まではいいが、態度にも出そうになるのを何とか堪える。


俺は無視を決め込んで、目の前で忙しなく客の相手をしているバーテンに声を掛けようとしたときだった。




「こんな時間にこんな場所に呼び出しとか、どうしちゃったんですか?


勤務時間外ですよ?組長」




カウンターテーブルに手を付き、スラリと高い身長をやや斜めに傾かせていた


大狼


の姿を見て、俺は目を細めた。大狼はいつになく真剣……と言うか、見慣れない…どこか余裕を滲ませた淡い笑みを浮かべている。