玄蛇のグラスが空になって、玄蛇は小さく吐息をつくとテーブルに頬杖をつき
「しばらく君との接触を控えよう。行くんだろう?鷹雄 響輔たちと旅行に」
と、のんびりと言った。
「何で知ってんのよ。もしかして盗聴したの?」
「傍受と言ってほしいね、電波ジャックだ」
「盗聴と何ら変わらないじゃない」
あたしの悪態に玄蛇は気を悪くした様子ではなく、渇いた笑い声を漏らしながら、首の後ろに手を回した。
ワイシャツの中からシルバーのチェーンのネックレスを取り出し、そのペンダントトップには、いつか見た…嘴が長く羽根を大きく広げている鳥のような…脚と思われるその先に“M”のイニシャルがついていた。
それを取り外すと
「私からのプレゼントだ。これがある限り、君は私以外の誰も手出しはできない。
もちろん、私の妹にも―――」
と言ってペンダントをテーブルに滑らせあたしの手元に送った。
意味が分からずテーブルに乗せられたペンダントと玄蛇の間で視線をいったりきたりさせて
「わけわかんない。あんたの妹があたしを狙うってこと?
あたしはあんたの妹が誰だか分からないのに」
「君がそうでも向こうはそうじゃない。君のことをよぉく知っている」
「あんたの妹ってことは、暗殺集団の生き残りってことでしょ。その人も殺人鬼ってこと?」
「殺人鬼と言うと少し語弊があるな。私“たち”は無差別な殺人や、私怨での殺人を起こさない。
むろん快楽行為の為でもない。
依頼主が居てはじめて仕事を請け負う。殺人と言うのは“稼業”で“ビジネス”だ。
しかし、そもそも妹は“殺し屋”ではない」
玄蛇は淡々と語ったが、内容は淡々じゃない、かなりヘビーだ。
「殺し屋ではないって言ったけど、“私たちは”って言ったじゃない。殺人鬼と変わらないじゃない」
今更ながら―――あたしが手を組んだ相手が最悪だと言うことを改めて知った。
「その殺人鬼から“不幸の手紙”……もとい“不幸の雑誌”を君にプレゼントだ」
玄蛇は楽しそうに笑ってテーブルの上に週刊誌を滑らせた。



