玄蛇は琥珀色のグラスをトンっと音を鳴らしてテーブルに置き
「…と言いたいところだが、君に死なれちゃこちらとしても不都合だからね。それに君を殺すと脅しても、それは君にとって大した脅しにならないだろう。
君自身が警察に行くなりすれば少なからず数日生き延びることは可能だ」
と淡々と説明をしてきて、でも淡々とした中にも独特のリズムがあって少し楽しんでいる節もある。
「じゃ……じゃぁどうするって言うの…」
あたしが聞くと、それは思いのほか弱々しくか細いものになった。JAZZの生演奏にかき消される程の。
「残念だな、せっかくいい歌声なのにピアノ伴奏があまり上手じゃない」と玄蛇は顔をしかめ
「はっきり言いなさいよ!あたしが裏切ったらどうするつもり!」と今度は持ち前の短気が出てせっかちに聞くと、ここに来て玄蛇はようやくあたしの方を振り向くと造り物めいた、にっこり笑顔を浮かべ
「相変わらずすぐに怒るね。まぁ君のそうゆうところも好きだけど。
私が君に求めることはたった一つ。私のことを聞かれても、知らぬ存ぜぬを通してくれ。
もし私のことを少しでも示唆するようなことをしたら
君より先に、君の愛しい鷹雄 響輔の首が飛ぶ」
と静かに言った。
カラ………ン…
あたしの手からグラスが抜け落ち、テーブルの上に転がった。淡いブルーの液体がテーブルにぶちまけられ、白いワンピースに飛び散った。
「お客様!大丈夫ですか!お怪我は?」
とすぐさま、ウェイターが飛んできたが、あたしはウェイターの言葉すら頭に入ってこない。ただ慌てふためくウェイターの様子を呆然と眺めることしかできなかった。
「ああ、すまない。ちょっと手が滑ってしまったようで」と、代わりに玄蛇が応えて、ウェイターは新しいカクテルを持ってくる、と言う。
響輔を―――
―――殺す?



