苛立った面持ちでバッグに着替えや化粧品を詰め込んでいると


ピンポーン


と、ホテルの部屋のインターホンが鳴った。


あたしとマネージャーは同じタイミングで顔を合わせた。


「誰かしら」


「さぁ、ルームサービスじゃない?見てきてよ。あたしは明日の準備で忙しいから」


最初は鬱陶しいマネージャーと一緒って所に嫌気がさしたが、今となってはちょっとした便利屋みたいで使い勝手がいい。


マネージャーは言われた通り扉まで行くとドアスコープから外を覗いていた。


「誰もいないわ」


と、怪訝そうに振り返り


「部屋でも間違えたんじゃない?」とそっけなく言い、


「でもこのホテル、このフロアはyou、あんたが使ってるデラックススイートだけよ」


とマネージャーは眉をしかめる。


「じゃぁ階数を間違えたんじゃない」


化粧水と、乳液と、美容液と……あ!パックも持っていかなきゃ!と準備にいそしんでいたからあたしはマネージャーの言葉なんてそれほど深く考えてなくて


「でも……あら?」


とマネージャーはかがんで床から何かを取りあげる。


「you、何か部屋に滑り込まされたわ。バレンタインカードみたいね…」


と、マネージャーは二つ折りのピンクの小さなカードを持ってきて


「まさかあなた、ここを誰かに突き止められたりしてないわよね。熱狂的なファンかもしれないわ」とマネージャーがカードを開けようとして、それより早くあたしはマネージャーからカードを奪った。


「人のモノを勝手に見るなんて悪趣味ね」


「だけど女優のファンレターはマネージャーが先に目を通すのが常識よ」とマネージャーも負けじと言い腰に手を当てる。


「あたしはまだそんなに売れてないでしょ。それにこんな小さなカードに爆弾なんてしこめないわ」と言い、それでもカードを開ける時はちょっと緊張した。


さっき、マネージャーからちらりと聞いた『刑事』の話が忘れられない。あの美しい刑事が次の一手を投じてきた、と言うのが容易に想像できた。


恐る恐る、開くと



“『エタニティ』を飲みながら、スカイラウンジで待ってる。


                    S”



となっていてあたしは目を開いた。