響輔はいち早く逃げて体を避け、俺のコーヒーをまともに食らった進藤は、ちょっとまばたきしながらおしぼりで拭きふき。
「本気なんですか?」
「マジかよ」
響輔と俺の言葉が重なり、進藤はいつになく真剣な顔つきで大きく頷く。
なるほど、だから響輔と距離を取りたがったってワケか。妙なところで納得。
「いや、確かに可愛いっちゃ可愛いけど…
でも、あいつはやめておけ?」
俺が指さすと
「そうですよ。リコさんはお嬢の親友ですよ。俺が言うのもなんですが、彼女を傷つけたりしたら―――…」と響輔は真剣だったが、俺も至極真剣に
「いや、あいつはある意味朔羅より強ぇえよ。
お前の手には負えんぞ。
あいつ……
ヤクザな俺にビンタかましてきたんだぜ!!」
俺がわなわな手を震わせて言うと
「え!そこ?」とまたも響輔の突っ込みが入る。「てかビンタ…て」
俺は大真面目な顔で「悪いことは言わねぇ、あいつだけはやめておけ?血ぃ見んぞ」と低く言って忠告すると
「……いや…もう無理っス…」と進藤も大真面目。
「もう遅いっス」
早まるなっ!進藤!!
と止めたかったが、やめた。大体中坊のガキじゃあるまいし、そこんとこお膳立てしなくても本人たちが決めるだろ。
と言うわけで、早々に進藤を引き戻すのを諦めたワケだが…
「姐さんだって暴君じゃないですかぁ」と進藤は口を尖らせる。
「てめぇ!俺の嫁のこと『暴君』呼ばわりするな!」
ガンっ!
再びグラスをテーブルに叩き付けると、俺の怒鳴り声も相俟ってか周りの客たちが何事かこちらに視線を向ける。
「この時点で戒さんも暴君ですが」と響輔の冷めた言葉をスルーして
「朔羅が暴君だったら川上は悪魔だ!」
「え!それは酷いっすよ~……リコちゃんは悪魔じゃありません」
ダメだこりゃ。
はじめての恋ってやつぁ何でこんなに盲目になれんだよ。



