朔羅―――…
手を繋いだまま、俺たちはどれまで走っただろう。ただひたすら、あてのない、ゴールもない……
このまま二人だけの世界にいたい。
そう思った矢先だった。
まるで絵本のような可愛らしい風景にテレビのノイズのような黒と白の煩わしい線が入り、やがてそれは完全に黒に染められた。
何だ―――
視界が暗転して、体が変な浮遊感に囚われる。
ただ、
―――堕ちる
その感覚だけは、はっきりと分かった。
次に目を開けたときは、身も凍るような寒さを感じた。
どうやら俺は地面に俯けに倒れていたようで、
「っ……」
打ったと言う感覚は無かったが酷く頭が重い。俺は何とか半身を起き上がらせると
さっき見たその景色が一変しているのが分かった。
草や花々は枯れ……と言うより凍っている?霜が降り、辺りは吹雪のように雪……と思ったが、それは桜の花びらで、それらが軽やかに舞っている。不思議な光景に目をまばたいた。
俺が居るのは確かに雪の世界だが、舞っているのは雪ではなく、桜の花びら。
女……の、裸足の足が視界に入り俺はその人物を見上げた。
桜吹雪の中、風が“朔羅”の香りを運んできた。
CherryBlossom……
纏っている香りや顏形は間違いなく朔羅のものなのに、その風貌はさっきの花畑で走っていたときとがらりと変わっていた。
白い肌、白い髪が風になびいている。白いロング丈のワンピースの裾はボロボロに朽ちていて、そのスカートの裾も髪と同じ方へなびいている。
全体的に白いが、眼と唇だけは赤く、まるで幽霊のような……
見慣れない朔羅の風貌に戸惑っていると、氷より冷たい何かが俺の頬をそっと撫でた。
朔羅はぞっとするぐらい妖艶に微笑みながら手に“何か”を持っていて、その“何か”の先が俺の頬を撫でている。
“それ”は見覚えがある―――
“雨龍”
「貴方がいけないのよ。
私を引きずり込んだ。
“罪の共有”と言う形で―――」



