彩芽は何か手段を考えよう、と言ったが、他にどんな案があると言うのか。
俺たちのカードは出揃った。タチバナとの関係も白虎のクソガキ共に知られた。
唯一リードしているとなると、タイガの生い立ちを知ったと言うことだけだ。それが何になる。
くそっ!
俺はため息を吐き、目を細めて流れる景色を見つめた。
運転手が「本社に向かっていますが、そちらで宜しいですか」と聞いてきて
「ああ、頼む」俺はそっけなく言って顎をしゃくった。
道路は渋滞していた。そのこともあって余計に苛立つ。
そして、いつの間にか俺は、うとうとしていた。
――――
―…
気付いたら、見知らぬ世界だった…
視界に飛び込んできたのは絵に描いたような爽やかなブルーの空。所々綿あめのような雲が浮いている。
辺りを見渡すと、俺はどうやら草むら…と言うより草原に近いな。で寝ていたようで、半身を起こすと、ピンクや黄色、オレンジなんかの淡い色の花が所々咲いていた。
見知らぬ―――世界…
いや、いきなりファンタジー小説になるわけでもないから、これが俗に言う『天国』なのか、と冷静に考えた。
とうとう俺は―――来てはいけない所まで来てしまったのだ、と後からじわりじわりと実感してくる。
遠くで少女の声を聞いた。
まるではしゃぐような、軽やかに笑う―――覚えのある声。
『……ま』
少女の声が近づいてきた。
『琢磨』
顔を覗きこできたのは、記憶に近い…まだ幼い―――朔羅の姿だった。小学校に上がる前の朔羅だ。朔羅の死んだ母親、そして俺の義理の姉の
―――百合香が、俺のことをそう呼んでいたから、いっとき朔羅もそれを真似ていた。
小さな白い手が差し伸べられる。
おずおずとその手を握り、俺は立ち上がった。
まだ幼い朔羅は俺の手を引いて、走り出す。
朔羅の大好きな色…ピンクのひらひらふわふわした素材のワンピースの裾を揺らし、裸足のまま駆ける。ノースリーブの袖から出ている二の腕やスカートの裾から覗く肌が眩しいほどに白い。
朔羅が一歩、また一歩と歩を進める度に、一年…また一年と大人の女に成長するように姿を変える。
無垢であどけない笑顔の横顔が、一つ一つ大人の女が身に着ける表情になる。
芳しい香りを放ちながら、それはゆっくりと花開く―――
大輪の華。



