「おおまかなことは分かった。で?佐野の前の戸籍は?」
せっかちに聞くと
「それがね……抹消されてたの。まさにリカバリーね」と彩芽が嫌味ったらしく言って、腕を組む。その顔に不機嫌が浮かんでいた。
「抹消?そんなことができるのか」俺が聞くと
「戸籍の全てはデータベース化されていて、PCで管理されている状態だが、きれいさっぱり跡形もなく消えていた。何者かが侵入したのだろう。間違いなくプロの仕業だ。
何者かは言うまでもなく大狼自身だと思うが。
どうやって佐野に行きついたのか、頭を悩ます所だ」
なるほど…佐野の前に知られたくない名前があったんだな。
「だけどね、岩手県警に戸籍の確認を依頼したところ、不思議なことに玄蛇の方の戸籍はそのままだったわ。
玄蛇の最後の名の記載は
玄蛇 護矢と飛影、そして朝霧と深夕…
だけどね、面白いことに二人の兄の生年月日が一緒。そして妹の方も同じ」
双子―――……?
恐らく玄蛇 護矢と飛影が本名なのだろう。
しかしキリに妹…もしくは姉がいたとは―――
「キリはそんなこと一言も…」
「どうやらお前の“秘書”は隠し事があるようだな」とタチバナは苦笑。「それでもお前の秘書を信用できるのか?」と言いたげだ。だが今はキリの隠し事よりタイガの方が先決だ。
それにあの女はまだ利用できる。
「四人の戸籍にはバツ印が打ってあったわ。つまり死亡か転籍と言った理由ね」
「しかし解せんな。佐野の前の戸籍は消し去ったのに、何故玄蛇の戸籍はそのままなのか」
タチバナが唸るように言ったが、
俺は少しだけヤツの考えが分かった気がした。
あいつは―――帰る場所を求めている。
玄蛇の痕跡を……存在を、生きた証を―――残しておくことで、それがあいつを支える唯一のものに違いない。



