ナインピックはドライジンとアブサンがベースのカクテルだ。
アブサンの原料の一つ“ツヨン”の成分は、過剰に摂取すると幻覚や錯乱を引き起こすといわれているから芸術家たちが愛飲した、とか。そこから生まれた言葉のようだが。
俺は深いため息を吐いて、
「お前の飼ってるスパイに探らせるのは?」とタチバナが両手を頭の後ろにやって遠い目でカウンターの奥にある酒の入ったショーウィンドウを眺めていたが
「だめだ。今は一切の動きは取らない。
朔羅の身の安全が最優先だ」
俺はテーブルに乗せた拳を握った。
「大狼が出した条件は一週間の沈黙よ。その一週間、辛抱強く待つしかないわね。
何を思って一週間と言う期限を切ったのかは分からないし、もしかしてその間に証拠隠滅を図るかもしれないけれど、これまでいくつも殺人を犯してきた人間よ。必ず“穴”はある筈」
「一週間の間に令状は取れないのか?」俺がタチバナを見ると
「どれも上を動かす物的証拠がない。限りなくクロに近いグレーだが、現段階で証拠能力が乏しい。それも難しいだろう」
また、振り出し―――か。



